2010年9月16日

地上権

甲は、乙所有の丙土地について地上権の設定を受けて、同地上に丁建物を建築した。甲が同建物を建築するについては、そのための資金として戊銀行から融資を受けた。

甲乙間では貸借権ではなく地上権が設定されたので、その存続期限については、借地借家法の適用があるはなく、民法の規定が適用される
この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃貸借の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。借地借家法1条。ゆえに、甲乙間についても、借地借家法の適用がある。

甲が戊銀行のために抵当権を設定するには、丁建物のみを抵当権の目的とすることができ、甲の乙土地に対する地上権抵当権の目的にすることできるない
民法第369条
1 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。

乙が死亡し、乙の相続人庚が丙土地を相続した場合、甲は、丙土地についての地上権登記または丁建物についての保存登記を経由しなくてもていない限り、庚に対し、乙の丙土地についての地上権を対抗することはできない

乙→丙土地を相続→相続人庚←丙土地についての地上権←甲

地上権も物権である以上、不動産の物権変動に関する民法177条の適用がある。
同条のいう「第三者」とは、当事者およびその包括承継人以外の者で登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。ゆえに、相続人庚は当事者乙の包括承継人であるので、「第三者」にあたらない。
結論、甲は登記を経由していなくとも、庚に対して甲の丙土地についての地上権を対抗することができる

甲の戊銀行に対する債務の担保のために、甲が丁建物について戊銀行のために抵当権を設定するとともに、乙が物上保証人として丙土地について戊銀行のために抵当権を設定していた場合において、戊銀行が抵当権を実行するためには、まず乙建物から行う必要が無い。

甲→債務の担保(丁建物についての抵当権)→戊銀行←物上保証(丙土地についての抵当権)←乙

保証人と物上保証人の比較

保証人 物上保証人
責任の範囲 一般財産
(無限責任)
担保に供した財産
(有限責任)
債務の負担
(直接の履行請求)
×
附従性 成立・内容・消滅いずれも、○
但し、制限行為能力者の債務の保証
(449条)
成立・消滅は、○
内容の附従性は、×(担保価値のみ)
(債務を負わないので)
随伴性
(根抵当権は×)
補充性 ○(446条) ×
催告の抗弁 ○(452条) ×
検索の抗弁 ○(453条) ×
債務者に意思に反した弁済
(自らの債務を負うので)
○(最判昭39・4・21)
(474条反対解釈、利害関係人)
但し、債務者も保証人も反対するのは×
(474条1項但書)
時効の援用権 ○(大判昭8・10・13) ○(最判昭43・9・26)
主債務者に対する時効中断の効力
(主債務者への請求、主債務者による承認)
絶対効(457条1項)
→以後の保証人の時効援用×
絶対効(最判平7・3・10)
(附従性・396条)
→以後の物上保証人の時効援用×
主債務者の債権による相殺の対抗
(主債務者の有する相殺権の援用)
○(457条2項) ○(多数説、大阪高判昭56・6・23)
取消権 否定説(大判昭20・5・21)
抗弁権説(通説)

事前求償権 委託を受けた保証人で、法定事由のとき○
(460条)
(649条の委任費用前払請求権の制限)
×(最判平2・12・18)
(担保設定委託の費用ではない)
事後求償権 ○(459条1項) ○(372条、351条準用)
負担の分担 <共同保証人間の求償>
分別の利益ない場合、特約ない限り平等
(465条1項、442条準用)
<物上保証人間の代位割合>
担保不動産の価格の割合による
(501条但書4号)

物上保証債務は、保証債務のような補充性(民法446条1項)は認められていないので、抵当権者である戊銀行は、丁建物、丙土地のいずれかを先に実行するか自由に決めることが出来る。 

第446条(保証人の責任等)
1 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。

甲が死亡し、甲の相続人己および辛が、遺産分割により丙建物を共有することになった場合において、己および辛は、いつでも相互に5年間は丙建物の分割を請求することができるはできない

民法256条1項
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。