2010年10月30日

【書評】『太平洋侵略史 全6巻』仲小路彰著

MSN産経ニュース

仲小路彰(なかしょうじ・あきら)は時の農商務大臣、仲小路廉の次男として明治34年、東京に生まれた。憧(あこが)れの漱石が教師をしていたこともある旧制五高に入り、バンカラな校風の中で多感な青春を過ごした。同窓に池田勇人と佐藤栄作がおり、栄作とは生涯の親交を結んだ。

東大で歴史哲学を専攻し、旺盛な執筆に明け暮れたが、その著作は政治的意図をもって人目を忍んだ。終戦後はGHQ(連合国軍総司令部)に没収され、ほとんどの著作が焚書(ふんしょ)処分の憂き目にあった。彼は山中湖畔に隠棲(いんせい)し、「未来学原論」「ロシア革命史」等の執筆と、ピアノと作曲の日々を送りながら、戦後の保守政権の外交政策に隠然たる影響を与えた。

今回復刻した『太平洋侵略史』は『世界興廃大戦史』全121巻の一部である。仲小路の歴史著述の特徴はほとんど私見をはさまず、史料そのものに事実を語らせる。彼は、17世紀以降の西欧列強のアジア太平洋への野望と、日本沿岸に打ち寄せる危機を静かに描き出す。英国のクック船長は侵略の事前調査という密命をおび、ロシア軍艦は長崎に侵入し、米国のペリー提督には露骨な侵略意図があった。仲小路は日本の混乱した幕末史を浮きぼりにし、欧米列強の侵略史を白日の下に曝(さら)した。GHQはそれを許さなかったのだ。

本書第6巻に西尾幹二氏の3万2千字超の解説と、仲小路彰略年譜、全著作論文一覧等を付した。大戦後の世界を正確に予言し、地球主義を提唱、未来のための総合エネルギー博をも企画した哲人の一端を知る大著である。