2010年9月17日

相殺

観光バス会社甲の運転手乙は、営業運転中に、丙が運転する丁社のタンクローリー車と衝突事故を起こし、バスの乗客が負傷した。
その事故は、乙の前方不注意と丙の居眠り運転が競合して生じたものであり、乙・丙の過失割合は3:7であった。



甲が乗客の請求に応じて損害を賠償した場合には、甲は、丙の過失割合に応じて丙に対して求償することができる。
甲は、乙の行為につき民法715条により使用者責任を負う。そして、甲が乗客の請求に応じて損害を賠償した場合には、甲は、丙の過失割合に応じて甲に対して求償することができる。最判昭和41年11月18日、民法719条1項。

乙が乗客の請求に応じて損害を賠償した場合には、乙は、賠償額全額につき丁に対して求償することができる。
乙は丁に求償することができるが、全額ではなく、あくまで丙の過失割合に従い負担する部分に限られる。
被用者と第三者との共同不法行為により他人に損害を加えた場合において、第三者が自己と被用者との過失割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて 被害者に損害を賠償したときは、第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができる。最判昭和63年7月1日。

乙が乗客の請求に応じて損害を賠償した場合には、乙は、賠償額全額につき甲に対して求償することができる。
使用者は加害者たる被用者に信義則上相当な範囲で求償できるとされている。最判昭和51年7月8日、民法715条3項。しかし、被用者から使用者に対するいわゆる逆求償については民法に規定がなく、判例もない。


乙および丙が乗客の請求に応じて対等額を支出して損害の賠償を行った場合には、乙は、自己の負担部分を超える範囲につき丁に対して求償することができる。
被用者と第三者との共同不法行為により他人に損害を加えた場合において、第三者が自己と被用者との過失割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて 被害者に損害を賠償したときは、第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができる。最判昭和63年7月1日。
すなわち、自己の負担部分を超える範囲の部分を丁に対して求償することができる。

丙が乗客の請求に応じて損害を賠償した場合には、丙は、乙の負担部分につき乙に対してのみ求償することができる。
被用者と第三者との共同不法行為により他人に損害を加えた場合において、第三者が自己と被用者との過失割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて 被害者に損害を賠償したときは、第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができる。最判昭和63年7月1日。
すなわち、丙が乗客の請求に応じて損害を賠償した場合には、丙は、乙の負担部分につき乙に対してのみならず甲にも求償することができる。